―――なぁ、。知ってるか? うん?何を? ―――息が白くなるのは、人の体温と気温との温度差が原因なんだってさ。 熱と冷気の狭間に位置するもの 「ハァー……。」 空に向かって息を吐いてみる。 息の白さに、今年もまたこの季節がやってきたことを知る。 3年、か……。 トグサと別れてからもう3年が経った。 しかし、どれだけの時間が流れても あの人が私の前から去った、この寒い季節が来るたびに 私はあの人のことを思い出し、そして………囚われる。 トグサはとても優しい人だった。 トグサの笑顔を見ているだけで包まれていると錯覚してしまうような、そんな人。 あの人はいつもあふれんばかりの優しさを私に与えてくれた。 あの人といる時、私はとても幸せで、 あの人がいなければ生きていけないほどにその優しさに溺れていた。 しかし。 彼は突然私の目の前から去った。 「は、悪くない。全て僕が悪いんだ。」 そう言い残して。 その時、私は知った。 優しさが人を傷つけることもあるのだと。 きっと彼にとってはそれが最後の優しさだったのかもしれない。 でも、私にとっては残酷さ以外の何物でもなかった。 「は、悪くない。」 この言葉は、私があなたにすがりつくことを許さなかった。 何かが壊れるには原因があり、 その何かをやり直すには、原因を取り除くことが必要。 だけど。 あなたが去った原因が、私じゃないのなら。 私にはもう、どうすることもできなかった。 泣き叫ぶこともすがりつくこともできず、ただあなたが遠ざかって行く背中を見つめるだけ。 そして、あなたのいなくなったこの季節に一人取り残され、 未だその優しさを求め続けている。 「どうしたもんかねぇ……。」 私は流れていく人波の中に一人立ち止まり、呟いてみる。 新浜の街はクリスマスに向けて鮮やかなイルミネーションに彩られ、 たくさんの恋人達がその中を幸せそうに歩いている。 きっと、この人たちにとっては冬の寒さですら幸せだと思えるのだろう。 あぁ、冬の街は恋人達のために存在するのか。 ぼんやりとそんなことを思いながら、依然道の真ん中に佇んでいた。 と、その時。 すごく懐かしい声が聞こえた気がした。 「もう、あなたったら。」 「はははは、ごめんごめん。」 この声は……。 私は心臓が張り裂けんばかりに動き始めるのを感じる。 間違いない。 この声は、この3年間求め続けたあの人の……。 私はゆっくりと、声のするほうへ視線を動かす。 あぁ…トグサ……。 そこには、幸せそうに微笑むあの人がいた。 あの頃と変わらぬ優しい笑顔。 ただ違うのは、隣にいるのが私ではない違う人で。 そして2人の指にはおそろいのマリッジリング。 そう…だよね……。 トグサは私に気がつくこともなく、 2人寄り添いながら、立ち止まったままの私とすれ違う。 「取り残されているのは……私だけ、か。」 私の呟きは白い息とともに夜空へと昇っていく。 いつかトグサが教えてくれた。 息が白くなるのは、人の体温と気温との温度差があるからだと。 それならば。 冷めることない私のあなたに対する想いも、吐き出したら白く染まるのだろうか。 いっそのこと、私の想いもこの白い息のように消え去ればいいのに。 そして私は、人ごみに押しだされるように歩き出した。 熱と冷気の狭間に位置するもの。 それは、行く当ての無い私の想い。 |
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初の攻殻夢。 設定的には娘が生まれてない頃でしょうか。 トグサンはやっぱ、愛妻家でいて欲しいの。 それにしても、これ……トグサもあんまり出てこないし名前もでてこないし。 …………もう何も言うまい、何も。 |