すぐ隣に感じるあなたの体温。

このまま薄らぐことなく私の中に留まればいいのに。







一瞬の熱情の保存方法







じっとあなたの寝顔を見つめる……。



「カカシ……。」



起こさないように静かにあなたの名前を呼んでみる。


わかっている。
あなたの温度を感じることができるのは今だけだと。


静かに規則正しく上下するあなたの胸に手を伸ばし、そして引き返す。
こんなにもすぐ傍にいてもあなたと私の間にある距離は……遠い。




恋人でもない私がカカシとこうなるのはとても簡単。

隙と酒と出来心さえ用意すれば、あとは知らない振りして流れに身を任せるだけ。
坂道を転げ落ちるように、事態は進行していく。



「ふぅ……。」
「……何ため息ついてるのよ?」
「あ、起こしちゃった?ごめんごめん。」



私は笑顔を貼り付け、ため息と共に自分の想いを飲み込む。


心より先に体に手を出した二人に未来などない。


それでもこの展開を望んだのは私。

あとでどれほどの傷になるかを知っていても、
それでもカカシが……その温もりが欲しくて、一瞬の熱情に手を伸ばしたのだ。



「もしかして、お前ずっと起きてたの?」



カカシはゆっくりとベットから体を起こし、ベットの淵に腰掛けると私に背を向けた。



「ううん、ついさっき起きたところ。」



その背中が私を拒絶しているようで、私は寝返りを打つと天井を見上げる。


本当に一瞬だったなぁ……。


まだシーツに残るカカシの体温に手を這わすとそのままシーツを握り締めた。

きっとカカシはこのまま服を着て、私の部屋から出て行くだろう。
そしてもう二度とこんな過ちを犯すことは、ない。


そう、これは私にとっては最後の希望。
でもあなたにとってはただの過ち。


ギシッ……。


ベットのスプリングが軋み、カカシがベットから立ち上がると
そのまま無言で部屋から出て行った。



「ふぅ………。」



私はもう一度寝返りを打つと、
さっきまでカカシがいた場所に自分の体を重ね、残り香を吸い込む。


この香りも体温もすぐに消え去ってしまう。


私はカカシに未来など期待しないと言いながら、
心のどこかでは、『もしかしたら……』なんて期待していたのかもしれない。



「………そんなわけ、ないのにね。」



そんな自分の愚かさが胸を締め付け、涙があふれた。



「……泣いてるの?」
「……っ!カカシ、帰ったんじゃ……。」



パッと顔を上げると、
カカシが部屋のドアに寄りかかってこちらを見ていた。
その手には水の入ったコップを持ちながら。



「帰ったほうがよかった?」
「いや、別にそうゆうわけじゃ……。」



もう帰ったと思っていたカカシの出現にあわてて涙を拭いた。


まずいところ見られちゃった…よね………。


最も見られたくなかった涙をみられ、
なぜ、カカシの気配を確認しなかったのかと自分の浅はかさを呪いつつ
毛布を手繰り寄せると、体に巻きつけた。


カカシは私が体を起こし、ヘッドボードに体を預けるのを見届けると
水の入ったコップを私に差し出し、再びベットに腰掛ける。



「ねぇ、。」
「……何?」



私はコップを受け取り、カカシから視線をそらす。


この後カカシから出てくるであろう言葉。
それは、言い訳……それとも謝罪?


どちらにしても、私にとっては死刑宣告。
この束の間の幸せを断ち切る合図なのだ。


この恋が終わるまでのカウントダウンは刻一刻と進んでいく。



どうせ終わるなら、はやくこの時間が過ぎ去ればいい……。
終わりが来るとわかっていても、ずっとこの時間が続けばいい……。



そんな相対する想いが絡み合い、永久ループとなって私の心を支配する。



「あのさ……。」
「うん……。」



そのまま二人で黙り込む。


カカシは里でも有名な忍びだ。
昼はコピー忍者のカカシとして、そして夜は木の葉の夜の帝王として
その名を知らないものはいないだろう。

だから、こんな状況だって慣れているはず。

なのに何をそんなに戸惑っているのか。


もしかして……。


油断をすると、ついそんな言葉が頭に浮かぶ。
そんなわけ無いとさっき自分に言い聞かせたばかりなのに……。


私はどんなに心に蓋をしても次から次へと湧いてくる期待を振り払うように
一人首を振ると、手元のコップの中でゆれる水面を見つめた。


期待した分だけ傷つくのは、私。


そんなことはわかってる、頭では嫌というほどわかっている。
でも、心は……わかってくれない。


どんなに否定しても。
何度そんなわけないとあざ笑っても。


私の心は期待することをやめてくれない。



「はは……、私って本当にバカだなぁ。」
「ん、何?」
「なんでもない。」



先程よりもさらに不自然な笑顔を浮かべると、私はコップに口をつけた。


この水は、私の涙。
これから私が流すであろう涙なのだ。
これを飲み干したならば。
私から切り出そう、この恋の終わりを。


そんな決心を胸に、一口一口味わうようにその涙を飲み干せば。


ほんのり塩辛い味がしたような気がした。



……。」
「カカシ、何にも言わないで。」
「えっ……。」
「わかってるから。私、ちゃんとわかってるから。」



大丈夫ワカッテイルカラ……。
コレガ一過性ノモノダッテ。



「これは、事故みたいなものだから。」



意図的な事故……。
一瞬のつながりを求めて起こした事故なのだ。

それなら私は当たり屋ってこと?
損害賠償を要求しない当たり屋か。


やっぱ、私ってバカだな、あはは……。



「……じゃあ、何でそんな泣きそうな顔をしてるの?」



カカシは眉間に皺を寄せ、私の顔を覗き込む。



「泣きそうな顔?」
「うん。」
「私笑ってるつもりだけど?」



これでも、忍びの端くれ。
自分の表情くらいコントロールできているつもりだ。



「いや。泣きそうな顔してるよ。」



そう言うと、カカシの手が私の頬へと伸びた。
私はそれを払うこともできず、頬から伝わるカカシのぬくもりに全ての感覚を奪われた。



「俺にはわかる……。」



あぁ、一体どうやったらこの人を忘れられるのだろう。

こんなこと言われて。
こんなことをされて。

このぬくもりからどうやって抜け出せるというの?



「あはは、そんなことないって。」



私の頬を包み込むこの手が濡れないように
私は目を閉じると静かに息を吸い込んだ。


そしてゆっくり目を開けた時。


目の前にあったのはカカシの顔。
そして唇から伝わるもう一つのぬくもり。



「……事故なんかじゃない。」
「………!?」
「ずっとこうなることを望んでた。」


望ンデイタ……?ダレガナニヲ?


私は、カカシの言っていることが理解できずに、瞬きもせずカカシの顔を見つめた。
きっとこの時の私の顔は人生の中で一番間の抜けた顔をしていたかもしれない。



?ちょっと聞いてる?」
「………えっ?あ、うん。ごめん、聞いてるけど理解できな…い……。」
「もう、俺が真剣に告白してるんだからちゃんと聞いてよ!!」
「真剣にって……」



そんなプリプリしながら真剣になんて言われても……。



「もぉー!!せっかくいいムードだったのにがそんな間抜けな顔するから。」
「ちょっと、何で私のせいなのよ!!」
「だって………もういい!!」



カカシの言いたいことが理解できぬまま、売り言葉に買い言葉。
ついついいつものようにカカシに食って掛かれば。


気がついたときには、体に巻きつけていた毛布を奪われ組み敷かれていた。



「もう、いい。俺が言いたかったのはただ一言だけ。」
「………。」



一体カカシが言いたいことは何なのか。


カカシが言っていたことをそのまま受け止めるなら……という希望。
でも、そんなうまくいくはずがない……という絶望。


カカシの下で身動き一つ出来ぬままカカシの唇を見つめた。




……好きだ。」
「…………う…そ……。」
「嘘じゃない。」



これは……夢なのだろうか。
私はまだ夢の中にいて、現実の私は一人ベットに寝ているのではないのか。


拭いきれない猜疑心を胸にカカシの言葉を待つ。



「ずっと、好きだった……。
 こんな状況で言っても信じてもらえないかもしれない。
 でも、俺の気持ちに偽りは……ない。」
「カカシ……。」
「今日、こうなる前に言おうと思ったんだけど、その……我慢できなくて。」



あの写輪眼のカカシが私の目の前で顔を赤らめモジモジしている。
その現実に、私は呆然とする。



「……カカシがモジモジしてる………フ、フフフッ。」
「ちょっと、なんで笑ってるのよ。俺、すっごい緊張したんだから!!」
「うん、ごめん……うふふっ。でもかわいくて……ぷぷぷ。」



何がおかしいのか自分でもよくわからなかった。
でも、笑いとともにこみ上げてくる涙を我慢することはできなかった。



「もう……泣かなーいの。」
「うん……。」
「さっき、の涙を見たときすごく胸が締め付けられた。
 泣くほど俺が嫌だったのかなって思って……。」
「違っ……そうじゃないの。」



カカシは私の隣に横たわるとそっと私の体を包み込んだ。
私はさっきまで手を伸ばすことすらできなかったカカシの胸に顔をうずめ、
そのぬくもりを確かめた。



「私……一瞬でいいからカカシのぬくもりが欲しかったの。
 そして、それをずっと自分の中に閉じ込められたらって思ってた……。」



カカシは何も言わずにただじっと私を抱きしめる。



「カカシ……私もカカシが……好き。」



そして、二人静かに重なり合った。






一瞬の熱情……それは一瞬の継続によってのみ保存される。








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…………。
私は今、猛烈に恥ずかしい!!
まともなシリアス短編……初めて書いた……。
うぐっ……コテッ……(チーン)。