気付いて、でも気付かないでいて
何時ごろからなのか
自分でも思い出せないけれど
あの人を追いかけていた……
NARUTO-そのドアの先には…
木ノ葉/ガイ編
私には意中の人がいます。
その人は上忍で年齢も少しばかり上の人。
「ガイさーん!」
ほら、誰かが彼の名を呼ぶと、私の視線は
すぐに彼を追いかける。
そして胸の中は苦しいくらいに熱く燃える……
「あ、あの!これ…受け取ってください!」
「おお!ありがとうっ!!」
チョコレートの包み箱を受け取り、彼はとっても優しい
笑顔を浮かべる。
それが合図となり、彼に思いを寄せる者や、感謝の気持ち
などを籠めて、周りの女性たちは彼にプレゼントを渡す。
優しい彼は断ることなく、全てを受け取り、持ち帰り、
そしてそれを食す。
「、今年も渡さないつもり?」
「…うん」
だめじゃなーい!と同僚に言われるけれど
私は苦笑を漏らすだけ。
勇気がない――と言うのもひとつの答えなのだが、
私が彼に渡すことが出来ない本当の理由は、
“皆と同じはいや”だから……
我が儘だと言うことは理解している。
正直、そんな自分も好きではないけれど…
でも、私は彼の特別になりたい。彼だけの特別な存在に。
「もうっ!結局渡さないで一日が終わっちゃったじゃない。
チョコ買う意味もないんじゃないの?」
「あはは……」
綺麗にラッピングされた箱を大事に抱え、私は帰る支度をしていた。
そして今年もこのチョコは我が家に戻り、別の食べ物へと変化し、
食される運命……そう考えると少し泣きそうになる。
「そうだ!それ、あたしが食べてやるよ!」
「えっ、ちょっ、ちょっと!」
ひょいっと箱を奪われ、私が慌てている間に、同僚は
リボンを解き、中のチョコを頬張ってしまった。
ああ〜、余計に虚しい……
同僚が美味しそうに食べているのを見て、私もどうでもいいやって
気分になり、箱からひとつ、チョコを取り出す。
そして口の中に入れれば、それはたちまち甘い、甘〜い香りが口内中に
広がる。
「なぁ、聞いたか?ガイ先輩、今年もお目当ての彼女から
チョコもらえなかったらしいぜ」
「ああ、あの受付にいる娘だろ?」
甘い香りを堪能していると、廊下の方からそんな会話が聞こえてきた。
受付の娘――その言葉に少しばかり胸が高鳴った。
「ったくよ。毎年あんだけ貰っといて、まだ誰かから欲しいなんて
先輩も欲張りだよなぁ」
「そうそう!俺等なんて1個か2個もらえたら、それだけでも
ありがたいってのにさー」
「でもよー!ガイ先輩、あんな性格の割にはおとなしく
チョコくれるの待ってるんだよな!」
「あはは!それそれ!俺さ、先輩のことだからナイスガイポーズで、
“!チョコはどーした!”――ぐらい言うのかと思っていたよ」
笑いながら廊下を過ぎる男性たちの言葉を聞き、私の胸は破裂しそうな
勢いだった。
あのガイさんが私からのチョコを待っていた。
嬉しさで泣きそうな気持ちと今までどうして渡さなかったのかと
言う、後悔が押し寄せてくる。
「、良かったじゃん!」
「あ、うん!」
「じゃあ、今からでもチョコを……あ」
そこで空になりかけた箱を思い出す。
そうだ、先ほど2人で食べてしまっていたんだった。
「…し、仕方ないよね…来年、そう…来年渡せばいいし…」
がっくりと肩を落とし、落ち込んでいると、
突然首筋に触れる何かを感じた。
そっと手を触れてみると、そこにはラッピングの
リボンがかかっていた。
「これは?」
「来年まで待つなんてナッシング!今すぐ
ガイ先輩の下へ行くのよ!」
「ええ!!」
彼女の言葉にいらないことを想像して赤面してしまった。
その間にも彼女は器用にリボンを結び、どこから取り出したのか、
香水をつける。
「さあ!行って来な!!」
どんと背中を押され、教室の外へと出されてしまう。
悩みに悩んだ結果、私は今、ガイ先輩のアパートまで
来てしまいました。
先輩の部屋は2階なので、登るか登らないか、迷っていると
道行く人たちに怪しい目で見られてしまった。
数十分悩んだ後、覚悟を決め、先輩の部屋へ向かう。
コンコン――とドアをノックすると、ガチャリと鍵を開けた音が聞こえる。
ゆっくりと開いていくドアを正面に、私の心臓は張り裂けてしまいそうな
勢いで打つ。
「…だれだ……って君は!!?」
私の顔を見るなり、驚いた表情を見せる先輩。
確かに突然の訪問なので驚かれるのも無理はないけど……
「あ、あの……わ、わ私…」
「…だろ?」
「は、はい!」
「…まあ、とにかく中に入れ。」
中々話題を振ることの出来ない私の名を呼び、
部屋の中へ案内してくれた。
「…」
「…」
二人の間にしばし沈黙が訪れる。
話したいこと、話さなきゃならないことがお互いには
あるはずなのに、言葉が上手く出て来てはくれない。
「あの、ガイ先輩……」
「なんだ?」
「今日……バレンタイン・デー、なんですよね」
「そうだな……」
「それで、その……チョコのことなんですけど……」
「……」
泣きたい気持ちになった。
こんな私でも忍びの端くれ。
チョコと言う単語にガイ先輩の気配が変わったことぐらい
感じ取ることが出来た。
そんな嬉しそうな先輩に“チョコありません”――なんて、とても
言えない……
「私、私ずっと、ずっと先輩のことが……チョコ、ずっと渡そうって。
でも、でも!」
忍びは感情を表に出すべからず――そんなことを
アカデミーで習っていたことなんて忘れてしまった、否、それ以前に
そんな言葉が存在していたことさえ忘れてしまうほどに泣いた。
泣いて泣いて泣いて……自分の我が儘のせいで、好きな人に
この大切な日に何もあげられないことや、どうして
ガイ先輩の気持ちにすら気がつかなかったのか、
そういった悔しさを涙に乗せて流す。
きっと今、先輩は困った顔をしているに違いない。そう分かっていても
涙はまだしばらくは止まりそうになかった。
「……俺も…ずっとを見ていた。
初めて報告書を提出したの日からずっと……一目ぼれしちまってな!
しかし、こんな性格なため、おまえに気持ちを伝えるのに
戸惑ってしまって……すまない…」
そう言ってガイ先輩は優しく私をその胸に抱き寄せた。
不思議だった……先輩の気持ちに気付かなかったのは、悪いのは
私の方なのに、先輩は自分が謝ってくれた。
そんな先輩のさりげない優しさに私の心は何かしなくてはいけない。
そう感じて、気がつけば彼にキスをしていた。
「……?」
「チョコはないですけど…キスならいくらでもあげます!!」
そう言ってもう一度、今度は彼の頬に軽く唇をあてた……
バレンタイン・デー
女の子なら一度は胸を弾ませ、意中の相手に
または感謝の気持ちを込めて異性にチョコをプレゼントしたことだろう。
もちろん、それは私も例外ではなかった。
けれど私はチョコよりも、もっともっと甘い、
恋する気持ちを相手にプレゼントしました。
そして
彼の、甘い私へのお返しを、ちょっぴり先に頂いちゃいました!
これにて私、の甘くとろけるような
行事は幕を閉じたのであった。
めでたし めでたし。
「ところで…このリボンはなんだ?」
「あ、忘れてた……」
ガイ先輩に尋ねられ、私は自分自身が送り物であったことを
思い出し、赤面する。
「これは…その……チョコの代わりと言うか…なんと言うか…」
一応、面と向かって言うのも恥ずかしいのでゴニョゴニョと言ってみたのだが
彼にはしっかり聞こえていたらしく、表情が一気に輝き始めた。
「な、なんと!そこまで俺のことを愛してくれていたのか!!
ははは!ならば俺もこの愛を全てに渡さなくてはなあ!!」
今夜は一晩中付き合ってもらうぞ!――と言う言葉が何を意味するのか、
それはとても語れたものじゃないので…この辺で失礼します。
あまり暴走しなかったですね。このガイ。
題名が意味を持つのは最後のリボン・笑
2007年2月14日 恋唄100題/68題・気付いて、でも気付かないでいて 桜情作。