ただ笑ってくれればいい
あなたに伝えたい
言葉があるの
NARUTO-そのドアの先には…
木ノ葉/カカシ編
ただ笑ってくれればいい
「カカシ!もうやめて!!」
忍びとして任務から戻ってきたあなたは
まるで狂ったように壁を殴る。
忍びの任務がどんなにつらいものなのか、
一般人の私には予測すら出来ないけれど…
それでも、それでも…そんなあなたを見ていると
私の気持ちは苦しくなってくる。
「もう、もうやめてよ!カカシ!」
壁を殴る拳からたらたらと新鮮な血が流れ落ちる。
それでも気にせず、あなたは殴り続ける。
まるで機械のように。
「もう、いいよ!誰も気にしてないから!あなたのせいじゃないから……
もうこれ以上やめて!」
後ろからあなたを抱きしめ、叫ぶけれど、
私の声はあなたには届かない。
どのくらいの時間が過ぎたのだろう。
私は諦め、立ち尽くしていると、ふと音が静まった。
視線をあげるとそこには壁に背を預け座り込み、膝を抱え、
泣くあなたの姿。
「…何の、何のための上忍だ!何のための写輪眼だ!!おまえを、おまえを
守れなかった……それどころから、俺はこの手でおまえをっ!!」
カカシのそんな叫びでなにかが弾けた感じがした。
それはまるでコップを割り、中の水が広がっていくみたいな感じ。
ああ、そうか……
あなたがそんなに壊れてしまったのは
私のせいだったのね。
敵国の忍びだった私。
何一つ本当のことは言わないで、
名前すら嘘を吐いて……
そんなあなたは何も知らずに恋をして。
愛し合って……
でもそんな偽りの関係がいつまでも続くはずはなくて。
あなたにばれてしまった。
里を裏切るわけに行かない私たちは戦った。
3日3晩、本当ならそんなに長く続くはずもないのに。
解っていた、あなたは手加減していたのだと。
『……本気を出して!』
『…』
いつの間にかあなたを本気で愛していた。
手加減されているのが悔しいと言うよりもつらかった。
このままではあなたを殺してしまいそうだったから……
『っ!あなたなんか…ただのお遊びだったのよ!!』
『……!!』
自分に、彼に、私は最後の嘘を吐いた。
刀を振り上げ、あなたに切りかかる。
あなたはとっさにチャクラ刀を構え、その切っ先を私に向けた。
『…!どうしてっ!!』
『……』
あの瞬間、私は刀を捨て、あなたの攻撃をみずから受けた。
これでよかった。
敵同士の私たちが幸せになれるはずなんて、初めからなかった。
里を抜けてしまえば、追われる毎日を過ごす。
今のままの戦いを続ければ、いずれあなたをこの手で殺めてしまう。
どの道を選んでも幸せになんてなれない。
それならば……
『!!』
『ばか、ねぇ……泣かないでよ。これで、よかったのよ』
利用するためにあなたに近づいたのに
いつの間にか本気であなたを愛してしまっていた。
薄れていく意識の中、どうしても一度だけ呼ばれてみたい、
そう思った。
最後の力を振絞り、あなたに私の名を教えた。
『――……』
『、!!』
「ねぇ、カカシ…私、ほんとうにあなたが好き。
だからもう、自分を責めないで。幸せになって…」
ただ最後に私の名前を呼んで――そう、泣きつかれて眠るあなたにそっと囁いた。
夢の中でもいい。
この声があなたに届くことを願って。
「…………」
名前と一緒に“愛してる”そう返ってきた言葉に
私の心は満たされた。
ねぇ、カカシ……
私たち、一緒にはなれなかったけれど
でも、心はひとつになれたよね。
あなたを愛し、愛された。
最初はつらいかも知れないけれど
苦しくて死にたい、そう思ってしまうかもしれないけれど
それでも生きていればいつかは淡い思い出に代わるから。
いつかあなたが忘れてしまっても、私はずっと覚えていてあげるから。
あなたと過ごした時間を。空間を。
あなたのことをずっと愛し続けるから。
だから代わりに、私にはあなたの笑顔と
幸せな姿を見せてくれればいいから。
誰よりも幸せになって
ただ笑ってくれればいいから……
あなたにそっと口付けし、私は淡い光となってこの世を後にした。
いずれ、あなたの下に辿り着くであろう、
一人の少女に我が愛を託して…
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何が書きたかったのか、私。
追記:今思い出したのだが、これを書いた日って従姉の誕生日だった・笑
2007年2月15日 恋唄100題/75題:ただ笑ってくれればいい 桜情作。