(気の迷いだ。そうに違いない・・)





休日ロマンス
(恋唄100題 76:しあわせなんて誰が決めるの)






「サースーケーくんっ♪クッキー焼いたのぉ〜。食べて〜ん☆」
「黙れイノブタ!!サスケくんは私が焼いたクッキーを食べるんだから!!」
「なんですって!?このデコスケ!デコリン!デコヒロシ!!」
「「きぃーーーー!!!」」

公園に散歩に出て、煩い女共の声を聴くことでサスケの休日がはじまる。
女二人がお互いにクッキーを食べ出すころにそっと争いから遠ざかる、それがサスケの散
歩になりつつあった。今日は曇り空で、今にも雨が降ってきそうな勢いだ。こんな日に傘
も持たずに散歩に出るサスケも酔狂だが、この女たちはサスケが来なかったらどうするの
だろう。ふとどんよりした空を見ながら少しだけ考えた。

さっさとサクラとイノの争いから退いたサスケは、ぶらりぶらりと公園をゆっくりと散歩
する。そこで毎週見かけるのは大きなゴールデンレトリバーの犬を連れたなかなか筋肉が
発達している20代前後の男。毎週見かけるサスケのことを覚えてくれたのか、目が合うと
ニッコリと笑いかけられた。優しげな瞳の犬を連れていることがポイントであり、サスケ
もつい笑い返してしまう。
そして男は視線を逸らし、公園近くにある寂れたパブを虚ろな目で見つめる。どうやらそ
れが彼の癖らしかった。好きな女でもいるのだろうか。

それきりで今日もその男との接点はなくなると思っていた。

ポツリと一粒鼻に水が当たって、サスケは空を見上げた。

「あ、雨。・・こっちだよ、おいでラッキー」

そのガッシリな体格と釣り合うような太い声で犬に話しかけ、男は犬を連れて近くの木に
入った。雨は大粒になってきて、サスケも雨宿りが必要だったので、その男がいる木に相
席させてもらうことにした。

「雨宿りさせてもらう」
「ああ、どうぞ」
「この雨だったらすぐ止むだろう。犬を連れていることだし、さっさと帰ったほうがいい
な」
「ああ、そうだな。ラッキーもそろそろ帰りたいか?」

男はしゃがみ、犬を優しくなでた。犬も主人に愛情を持っているのか、しきりとシッポを
はたはたと動かしてベロベロと大きな舌で舐めまくる。

「犬、好きなのか?」
「ええ、大好きよ。ラッキーが恋人なの」




(・・・よ?・・?)

男は、パシン!と口を押さえ、恐る恐る視線を犬から外してサスケのほうを見た。
サスケは・・・・・聞いてしまった。
男も・・・・・喋ってしまった。

「・・・・・・・お前、カマか?」
「いやいや、それだけで判断するなよ。・・ハハ」
「そういえば、女物の香水の匂いがするな。先ほどあそこのパブをしきりに見ていたが、
朝帰りか?」
「え・・・えぇ?そうかい?・・ハハハ・・」

引きつった笑いを見せるが、サスケにはわかる。この男から匂う仄かないい香りは、たま
にみたらしアンコがつけている香水と同じ香り。筋肉質の男は狼狽して、犬をさらに撫で
上げた。

「・・・はぁ、男でいることも難しいのかしら・・」

男は観念して息を吐いた。
雨は先ほどよりも小ぶりになってきていたが、男が話し出そうというのに逃げるわけにも
いかず、耳を傾けるしかなかった。

「公園横の小さなパブがあるでしょ?あそこってこういう系のパブなのよ。パブに働き始
めてから5年・・・。私、ものすごく筋肉質で、この顔でしょ?だから、オカマの中でもさら
に浮いちゃって・・・心に嘘をついて男になろうかなって思ったの。ジョギングして、辛い
ことをして身体を鍛え上げてみれば男になれるかなって。この間、男に逃げられちゃって
ね・・・辛くて、女として働くのが辛くて、お仕事やめたの」
「・・・・お前は男に逃げるのか?」

たしかに筋肉質ですごい青髭。・・男にしか見えない。
しかし、よく見れば立ち方も微妙に内股で、眉をきれいに描き、爪にはよく手入れが施さ
れている。外側から見える女としての情報はこれくらいしかないが、それだけでも男には
到底考え付かないマメさだ。

「だって、どうにもならないじゃない・・・。こんな姿の女、愛してくれるはずないわ。シ
ンデレラだって一目ぼれされて王子様と幸せになったのよ?」
「見かけだけの女なんてつまらないだけ・・俺はそう思うぜ。お前だって、男に逃げられ
たってことは、一時とはいえ相手がいたんだろ?」
「でも、本気じゃなかったのよ?」
「恋愛ってのは思い込みの問題だ。お前がいい女らしくあれば、相手だってそれくらいわ
かるさ」
「・・それなら、アナタが来週1日だけ私と付き合ってみる?」

ほら、できないでしょ?と肩をちょっと上げて笑ってみせる男の顔は、あきらめたよう
な、悲しい微笑みだった。その顔が許せなくて、サスケは冷静ではなかったのだと感じ
る。

「ああ、いいだろう。ただでさえ煩い女共に追っかけられていたんだ。お前がいてくれさ
えすれば、少しはマシになるだろうさ」

男は目を真ん丸にしてサスケをマジマジと見つめた。

「俺はうちはサスケだ」
「・・・この場合は源氏名のほうがいいのかしら。・・・よ」
「カマって呼ぶことにするぜ」
「カマはやめてちょうだい!お下品ね!って名前があるんだから!!」

こうして、奇妙な関係は始まった。





「サ〜スケくん♪パイ焼いてきたの!食べてくれる〜?」
「ちょっと!!何してんのよデコリンサクラ!!私のこそ食べてくれるわよねぇ〜」

バチバチとサクラとイノの火花がサスケの目の前で飛びちるが、今日は珍しくサスケは冷
静でいられた。

「サスケく〜ん、待たせたわね!」

ワン!と一声ラッキーが鳴き、サクラとイノの顔はそちらに振り向く。その声はどう聴い
ても男の声だから当然だろう。図太い女言葉が辺りに広がる。

「ああ、待ったぜ。遅かったな」
「ごめんなさいね!ちょっとラッキーが興奮しちゃって・・」
「ラッキー、俺様に逢いたかったのか?」

ラッキーはべロンとサスケを舐めると、そのまますかさず押し倒しにかかる。しかし腐っ
ても下忍である。逆にラッキーのほうが押し倒されてしまって、サスケに可愛がられた。

「それじゃあな。サクラ、山中」
「いいの?サスケくん」
「ああ。行こうぜ

太い筋肉質な腕を小さな腕に絡め、後ろを振り返らずに去っていくサスケたち。
ポカンとした表情で見送る二人。

「・・・ど、どういうことなの?サクラ・・」
「え、私に聞かないでよ・・こっちが聞きたいわ・・」

そんなあーーーサスケくぅーーん!!!
背後から悲鳴が聞こえるが、あえてここは無視をする。隣を見上げると、がちょっとだ
け苦い顔をしているのが見えて、ちょっとサスケは首をかしげる。

「どうしたんだ?」
「二人に悪いことしちゃったわ。・・あとで謝んなさいね」
「何故だ?・・ウザいのが一蹴されていいじゃないか」
「男の子にとって女の子はシツコくて図太いって思うかもしれないけど、女の子にとって
はいつも不安なことばっかりなのよ?すごく傷つけちゃったわ」
「ウスラトンカチ、お前は俺の女なんだろ?」

サスケの言葉を一瞬目を皿のようにして見つめると、そのうちにウフフ、と図太い声で笑
い出す

「今日は嫉妬って言うスパイスがかかった最高の女ね。すごく嬉しい」
「ああ、そりゃよかったな」

今日のの格好はあまりにも「オカマ」を象徴させるような格好。ボブカットのカツラに
アゴが割れている顔に青髭・・そこに白く厚塗りした化粧、そして太い唇には真っ赤なルー
ジュを唇に落としてマスカラはバシバシである。

「お前・・もうちょっとマシな化粧しろよ」
「あら、夜はもっとケバい友達のほうが多いわ!私は大人しくさせてるほうなんだか
ら!」

これよりも激しい化粧があるのか、とサスケは呻く。
しかし、今日のは今までジョギングしている姿しか見たことがなく、ジャージ姿ばかり
だったので少し新鮮に思えた。化粧まで念入りにしてきたということは、それだけサスケ
の言葉が嬉しかったのだと想像する。・・・が、あまりにも露出が激しい。

「普段はそんな格好なのか?まるで昼と夜が逆転してるぞ」
「・・・・そんなに派手かしら」

ビチビチに破けそうなミニスカートに、フリルのついた、またまたピンクのビチビチなV
ネックシャツ。その上には赤いトレンチコートだ。アゴの割れた、筋肉質な男が着るには
あまりにも目の安らぎがない見ばえである。

「お前、女を観察するのは昼間にしろよな。・・それで、今日はどうするんだ?
「何も考えていなかったけど・・、サスケくんどっか行く場所ある?こういうものは男から
のエスコートでしょ」
「いや・・・俺は休日も散歩が終わったら修行だからな」
「ああ、通りで落ち着いてると思ったわ。忍者だったのね。・・じゃあ、サスケくんの修行
してる姿見てていいかしら?」

ちょっと含み笑いをするに、サスケは眉を上げる。

「修行のどこが面白いんだ?もっと、遊びに行くところへは行かないのか?・・女ってのは
すぐに遊びに誘うものだと思っていたけどな」
「ウフフ、これも面白いのよ!」
「では・・行くか?」
「あ、ちょっと待って。お化粧直しに行ってくるわね」
「・・・・・早くもどれよ」
「ええ!」



便所へ急ぐを軽く見送ろうとすると、サスケはコソコソとこちらを覗いている影に気が
ついた。その数は2人・・・3人か。木の陰に隠れてるのだが、サクラとイノではない。気
を殺せる忍とは違って微力なチャクラは堂々と出ているし、チラチラと視線が注がれる。
一般人、素人の視線である。

「・・・・誰だ」

木の陰に隠れていた人物は、その問いかけを自分に宛てられたものだと確信したらしい。
ガサリと木が揺れる。しかし、まだ出てこないのは気がついていないと思っているのだろ
うか?しかし、悪意があるにせよ、なかったにせよ、自分達が見張られているのは事実。
サスケはギロリと木の陰を睨んだ。

「そこに隠れている奴、出て来い。さもないと・・・ぶっつぶすぞ」

中忍でも恐れるような殺気を木の陰に放つ。その恐ろしさのためか、木の陰に潜んでいた
3つの影は怯みをみせた。おそるおそる、その姿を見せる。

「・・・・・あ、あの・・・・・・姉さんを・・・・、返してほしいんです」

現れたのは、内股でビクビクと震える細身の男3人。どれも厚化粧をして色とりどりのカ
ツラをつけている。男とわかる基準は、皆髭が多少濃いからであった。

姉さんがいないと・・私たち、頑張れないの!」

1人がサスケに向かって叫ぶ。震える身体を押さえて、下唇を噛み締める。その姿のなん
とか弱いこと。一蹴り入れれば折れてしまいそうな足をしている。髭さえなければ、誰も
が女と勘違いするだろう。

の友人か?」
「・・・・仕事仲間・・・。姉さんに憧れて、私たちも勇気をもってあのパブに入ったの」

青いカツラをつけた着色料いっぱいの「タラコのような唇の男が、しょんぼりと項垂れな
がら話し出す。

「仕事や恋の相談は全部姉さんに話したわ。姉さんのアドバイスはすごく上手で
・・・・・でも、肝心の姉さんは好きな男の人に振られちゃって・・姉さんはそれがショッ
クでお店もやめちゃったの・・・。今度は私たちが姉さんの力になりたい。姉さんを助
けたいのよ!!」
「だが、はそれを望んでいるか?」
「・・・・・・・・・」
「だけど、姉さんには元の仕事に戻ってもらいたいの。一緒に働きたいのよ!」
「それは俺じゃなくて、に言うことじゃないのか?」

3人はぐっと押し黙る。
忍であるサスケよりもに訴えることのほうがこのオカマたちにとってはかなりのプレッ
シャーらしい。サスケはふっと視線をが消えた方向に向けると、静かに言った。

「・・・・が来るぞ」
「えっ!・・やばっ!」

3人は茂みの中に隠れると、それと入れ替わりになってが帰ってきた。

「お待たせ。・・・どうしたのよ?」
「いやなんでもない。行くぞ」
「ええ!」

花がほころぶような可憐な笑顔を見せるガタイのいい男。男から見てもうらやましいその
身体・・・。
だが、誰からも頼られ、顔はともかくも綺麗に微笑むかわいい女である。

「・・・・・お前を振ったやつって、誰なんだろうな」
「え?何?」
「いや、なんでもない」

冬の風は冷たく・・・・・二人を距離を縮みこませることはそう難しいことではなかっ
た。
そこで見かけたサスケの顔は、いつもよりもふんわりと優しい笑顔だったという。



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次で完結。
変なところで区切ってすみません・・!
→続(056:蜃気楼のようなくちづけ)


by (076:しあわせなんて誰が決めるの)